当館では2017(平成29)年に企画展「南方より、伊東深水から―市川市所蔵『南方風俗スケッチ』」を行いました。日本画家・伊東深水(1898-1972)は、第二次世界大戦中の1943(昭和18)年に海軍報道班員として従軍、南方に4カ月ほど滞在し各地を巡っています。この企画展は当時制作された400枚以上といわれる膨大なスケッチの一部を紹介するものでした。
本展は2017年の内容を引き継ぎ、さらに発展させるものです。今回は長野県の酒蔵美術館ギャラリー玉村本店が所蔵する南方のスケッチから、軍事郵便絵葉書の原画となった作例などを紹介します。
また、同ギャラリーでは伊東深水が終戦時長野県小諸市周辺に疎開していたという地縁から、終戦前後の小諸周辺を描いたスケッチも所蔵しています。二つのスケッチは1943年4月から7月の東南アジア、1945(昭和20)年の8月から9月にかけての小諸、それぞれの景物や人、季節を描いたものです。太平洋戦争最中から終戦への時代の大きな流れを、伊東深水のまなざしを通した日々の移り変わり、文字通りの「光景」として描いているのです。
そこで本展ではこの伊東深水の南方スケッチ、小諸スケッチの双方を展示することとしました。美人画家として名高い伊東深水ですが、風景画に対しても生涯強い関心を寄せており、眼前の光景を的確にとらえる巧みな筆線も、大きな魅力の一つです。
なお、当館所蔵コレクションの軸である洋画家・中村研一(1895-1967)は伊東深水とほぼ同世代で、深水と同様海軍報道班員として南方に渡り、当地の風景を描いています。加えて、彼も終戦を疎開地である茨城で迎えました。二階展示室では中村研一の疎開生活へ目を向けた作品を中心に展示し、画家二人の時代の光景を概観します。