この展覧会は、チェコ出身のふたりのアーティスト、アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)とエミール・オルリク(1870-1932)に光をあて、ジャポニスム(日本趣味)の影響を受けて展開した同時代のチェコの美術や、ミュシャとオルリクの影響を受けた日本の作家たち、さらにはオルリクと交流のあったウィーンやボヘミア地方の作家たちを採り上げ、グラフィックを舞台に展開した東西の交流を紹介するものです。
ミュシャは、ジャポニスムに湧くパリで、女優サラ・ベルナールを描いたポスターで一世を風靡し、アール・ヌーヴォーを代表する画家となりました。その評判は日本にも伝えられ、藤島武二など文芸美術誌『明星』や洋画団体「白馬会」周辺の画家たちに影響を与えました。
一方プラハに生まれ、ミュンヘンで絵を学んだオルリクは、プラハを拠点にベルリンやウィーンでジャポニスムの潮流にふれて日本への憧れを募らせ、1900年から翌年にかけて来日しました。浮世絵版画の彫りや摺りを学び、自ら多色摺の木版画を制作したほか、滞日中にオルリクが制作した石版画は、画家による版画への取り組みという新しい意識を一部の日本人に呼び起こし、日本の創作版画が誕生する機縁となりました。帰国後は自作や日本で得た資料をプラハやウィーン、ベルリン等で展示し、それぞれの地の芸術家に影響を与え、カール・ティーマン(1881-1966)やヴァルター・クレム(1883-1957)といった作家を木版画制作に駆り立てました。
こうした1900年前後のヨーロッパと日本の影響関係は、グラフィックを介したジャポニスムとその還流と捉えることができます。グラフィックならではの、即時的で双方向な「めぐるジャポニスム」の様相をお楽しみください。