長谷川等伯[はせがわとうはく](1539~1610)は、狩野永徳[かのうえいとく](1543~1590)とならび桃山画壇の巨匠として知られています。東京国立博物館所蔵の「松林図屏風」は、日本人に最も好まれる山水画ともいわれ、近年では海外でも名品として注目を集めており、等伯の代表作というだけでなく、日本の水墨画史上の最高傑作といっても過言ではありません。墨の濃淡が光の強弱をあらわし、靄に包まれ、あらわれ消える静寂な松林の風情をみごとに再現しています。荒々しい筆使いで四つのグループに描き分けられた松林は、風が木々の間を通り抜けるように配置されています。そして靄の晴れ間からは雪山がのぞき、晩秋の冷たい空気を感じさせます。等伯は、京都・大徳寺に伝わる国宝「観音猿鶴図(かんのんえんかくず)」などから南宋時代の画僧・牧谿(もっけい)の筆法を直接的に学びました。等伯は、こうした中国渡来の筆法を用いながら、やまと絵の伝統的なモチーフである松の林を詩情豊かに描きあげたのです。「松林図」は日本的な水墨画の最初の作品ともいえるでしょう。