キュビスム以降の抽象絵画の展開を核心で理解し、その可能性を究極まで推し進めた画家・坂田一男(1889-1956)。世界的にも稀有な高い次元に到達していた坂田一男の作品世界の魅力に迫ります。
第一次大戦後の1921年に渡仏した坂田一男は、当時のアヴァンギャルドを咀嚼吸収して急速に成長し、ピカソやレジェ、モンドリアンらとともに展覧会に出品するなど最前衛で活躍しました。1933年に帰国してからは、中央画壇との交流を絶ち、高潮による2度の水禍にも挫けることなく、1956年に亡くなるまで岡山県の玉島のアトリエで自己の絵画の造形的探究に没頭しました。また、戦後には「A.G.O.(アヴァンギャルド岡山)」を主宰して若手作家たちを指導するなど後進の育成にも励んでいます。
本展は、当代随一の美術批評家でもある造形作家の岡﨑乾二郎氏を監修者に招き、〈現在の画家としての〉坂田一男の仕事の全貌を、約300点の作品群によって提示するものです。特に、帰国してから戦後にかけての画業を同時代の国内外の作家たちと比較しつつ、20世紀絵画表現の問題群として読み解くセクションは、絵画の潜勢力を解き放つ機会となるでしょう。絵画そして世界の巻き返し=再生はまだ可能なのです。