当館では和歌山県ゆかりの人物を軸に、大正時代に活躍した作家やグループに関わる展覧会を継続して開催してきました。それらの展覧会を通して作品や資料の収集が進み、大正時代とその前後にわたる時期の充実したコレクションが形成されつつあります。この展覧会では、そのコレクションの中から洋画と版画を中心とした作品を、同時期の社会と人に関わるテーマを通して紹介いたします。
大正は、1912年7月から1926年12月までの14年あまり、大正天皇が在位していた期間の元号です。過去のある連続した時間のまとまりを、文明や社会、政治体制など、特定の観点によって区切ったものが時代ですが、一世一元の制が定着した近代以降の日本においては、元号がそのまま時代区分として機能してきました。
元号が改まったからといって、ある日を境に人や社会が激変する訳ではないことは、私たちが身をもって体験したばかりです。しかし、大正時代を中心にその前後を見渡してみれば、大逆事件、第一次世界大戦、本格的な政党内閣の成立、関東大震災、普通選挙法と治安維持法の公布、満州事変など、国際的にも国内的にも、見方によっては時代の転換点と言えるような出来事が続きました。
美術作品が人間の作り出すものである以上、ある時に起こった大きな出来事や、社会的、文化的な流行などが、その表現やテーマに影響を与えることはしばしばあります。もちろん作品の特徴を時代と結びつけるのは一面的な見方ではありますが、作り手の意図する/しないに関わらず、作品からは当時の人や社会のあり方、またそれらが変化する様子を読み取ることもできるでしょう。
元号が改められた本年、美術作品を通しておよそ100年前を振り返ることで、近代から現代に至る時代のつながりと変化を、改めて見つめ直したいと思います。