徳川美術館に今日収蔵されている陶磁器はもともと、御三家の一であった尾張徳川家に、江戸時代・およそ260年もの間、脈々と受け継がれてきた大名道具です。その基礎となっている尾張徳川家初代義直が父・徳川家康より譲られた道具(駿府御分物(すんぷおわけもの))には、室町将軍家伝来の品(東山御物(ひがしやまごもつ))や、織田信長・豊臣秀吉ら天下人が所持した品、また武野紹鷗(たけのじょうおう)・千利休(せんのりきゅう)ら茶人が所持したと伝えられる品など、後に「尾張様所持」と世上に知れ渡っていた数々の道具が含まれていました。それらに加えて多種多様な会席の道具や文房具・御庭焼(おにわやき)などが加わって、今日、国内有数と目される大名家伝来の一大陶磁器コレクションを形成しています。
本展覧会は、尾張徳川家伝来の蔵帳(くらちょう)類に記載された道具の分類に従って、どのような「表道具(おもてどうぐ)」(公式道具)が「上御数奇御道具(じょうおすきおどうぐ)」として将軍御成(おなり)のような公式行事の場に相応しいと選ばれていたのか、またはどのような道具が当主の私的な御側御道具(おそばおどうぐ)に選ばれていたのか、といった、今日の視点とは異なる近世大名家の道具の享受のあり方と価値観を、陶磁史・文化史の側面からも読み解きながら、およそ170件の作品で紹介します。