当館において平成13年度に開催した二代目磯尾柏里遺作展からほぼ20年を経て、このたび植野記念美術館開館25周年に併せて本年還暦を迎えた三代目磯尾柏里(本名 隆司。以下柏里という)の個展を開催いたします。
柏里は旧氷上郡柏原町(現丹波市)柏原本町で生まれました。健治(祖父・初代柏里)、健一(父・二代目柏里)、関口寛治(叔父)など彫刻に携わる家族・親族に囲まれた環境に育ち、幼少の折から祖父や父の仕事を目の当たりにしながら成長しました。
金沢美術工芸大学では塑造を学び、昭和58年卒業直後に日展と日彫展に初入選しました。この15回日展では、二代目柏里と関口寛治氏も同時に入選し、周囲を驚かせたという逸話が残っています。
以降現在まで日彫展には連続出品され、日展も入選を重ね、2000年 32回展出展作「大地2000」で、2007年 第39会展出展作「明日へ」で、それぞれ特選を受賞され、現在は日展会員として活躍されています。
初代柏里は、木彫をよくし、時事性・社会性に富んだものから人体・群像彫刻、技芸天・悲母観音などの仏教彫刻など多様な作品を遺しています。他に、柏原八幡神社の狛犬、柏原藩陣屋跡の田捨女の石彫もよく知られていますが、その作品からは、いまに伝わるその一徹な人柄からは想像できない対象に対する深いやさしさが感じられます。なお、柏里という号は、その作品と人柄に惹かれた昭和十年代に篠山在勤の毎日新聞記者であった斉藤子郊氏から贈られたものです。
二代目柏里は、展覧会出展作品としては一貫して牛をテーマとし、その生命力と力強さ、一途な愛情が感じさせるものが多いように思えます。市場に出ることを想定した木彫作品は、初代よりもさらに温かさを感じさせます。柏原歴史民俗資料館に現在展示されている「武者行列」は昭和14年に制作されたもので、地元の情景をユーモアを交えて暖かく再現し、来館者を楽しませています。
三代目柏里は人体表現に打ち込み、青年の若々しさ、苦悩、少女の不安など瑞々しい感性で表現しつつ、初代柏里の一徹さ・厳しさをその内に秘めていると評されています。代表作「明日へ」は未来を希求する強い意志を見る人に感じさせる作品です。
本展では、開館25周年記念展として、ほぼ40年間にわたる三代目磯尾柏里の創作活動の歩みをみなさんに紹介いたします。