江戸時代は、人びとの生活を彩る蒔絵や陶磁器などの器物や染織品などに、優れた職人の技が冴えた時代でした。武士のためには刀の鞘や鐔などの刀装具、町人のためには印籠や根付、莨入(たばこいれ)など、伊達男たちの装いにみる品々、また女性の華やかな意匠の着物などは、江戸時代の職人の優れた技術があってこそ作りだされたものでした。蒔絵の器物では、尾張徳川家に伝わる初音調度(はつねのちょうど)が、江戸初期の匠たちの最高の技を見せるものとして知られていますが、それに連なる優れた作品も数多く見られます。 江戸時代には野々村仁清(ののむら にんせい)や尾形乾山(おがた けんざん)など、優れた職人が個人作家として活動し始め、江戸時代後期は、多くの個人作家が生まれた時代でもありました。陶磁器では京都を中心に奥田穎川(おくだ えいせん)、仁阿弥道八(にんなみ どうはち)、青木木米(あおき もくべい)、三浦乾也(みうら けんや)などが、蒔絵では小川破笠(おがわ はりつ)や原羊遊斎(はら ようゆうさい)、柴田是真(しばた ぜしん)などがそれで、さらに彼らとの合作作品を残した金工の土屋安親(つちや やすちか)、加納夏雄(かのう なつお)などが名匠として挙げられます。そうした名匠の技を楽しんだ江戸時代の人びとの生活を、作品に見てください。