藤田喬平(1921-2004年)は、戦後日本のガラス芸術を切り開いた本国を代表するガラス作家の一人です。東京美術学校(現 東京藝術大学)で彫金を学び、卒業後はデザイナーとして勤めるも、学生時代から関心のあったガラスの道へと進むことを決意し、岩田工芸硝子に入社。2年後に独立し、作家としての活動をスタートさせます。
藤田の代表作「飾筥(かざりばこ)」は、琳派の作品にみる形や装飾美から着想を得て制作されたシリーズです。日本の伝統的美意識をガラスという素材で表現した革新的な造形は、国内だけでなく海外でも高い評価を受けました。77年からはイタリアでの制作を開始。ヴェネチアン・グラスの伝統技法を取り入れた花器などの「ヴェニス」シリーズを発表します。このような藤田の作品には、それぞれの国の伝統や造形手法をベースにしながら、作家が自らの感性によって再構築した独自の形や色彩表現をみてとることができます。84年には、ヴェニスの職人とともに制作した「オブジェ」の大作を発表。流動するガラスの性質を最大限に引き出して作られる彫刻的な造形は、自身の作品世界を広げる挑戦的な創作でもありました。
本展では「飾筥」、「ヴェニス」、「オブジェ」3つの作品群を軸に、ガラス作品約50点と制作に用いたスケッチをあわせて展示。制作に対する姿勢や思考の一端をたどり、飽くなき創作意欲によって生み出された独自の表現と造形の魅力を紹介します。