1980年代から90年代にかけて田名網敬一は、60年代と70年代を通じて探求を続けたポップスタイルから脱却し、「生と死」をテーマにした作品を数多く手掛けている。この時代の作品には、戦争により飽和状態に達していた幼少期の記憶や、大病を患った時に見た幻覚などから霊感を得た奇異なモチーフが極彩色で彩られている。松や鶴といった吉祥的なモチーフと、それらを取り巻く不穏な色彩と構図といった相反するものが同居し混在する田名網の作品は、戦時中にアーティストの脳裏に焼き付いた残酷なイメージとその異様な美しさを、膨大な記憶の集積によって再構築させる試みといえる。
本展は、市民ミュージアムが所蔵する田名網敬一作品のうち、連作のペインティング《夢・四十九夜》(1986年)を一堂に公開するほか、70年代後半から90年代にかけて制作されたポスター・版画作品と、一連の立体作品や実験映像作品(田名網敬一スタジオ蔵)を中心に、作品の中で反響する田名網の「記憶」を辿る。