森芳雄(1908-1997)は戦後日本の苦しい精神状況を、男女ふたりの裸体像を通して見事に捉え、戦後の洋画界の金字塔とされる《二人》(1950年、紀伊國屋書店蔵)を描き上げました。
森芳雄の画業の中心は母と子の強い絆を描いた母子像、生命力溢れる裸婦像、そして若者を扱ったエネルギー漲る青年群像などの人物画です。他にも風景画や静物画もありますが、いずれのテーマもヒューマニズムの観点から描かれ、重厚なマチエールと心温まる画風が特徴となっています。人物画の場合、顔の表情などの詳細を描かず、暗褐色の落ち着いた色調を使い、線や面、陰影などで構成した独特の具象絵画で、人物を組み込んだ抽象画のように見えます。
昨年、森芳雄氏のご遺族や関係者の方から代表作を含む油彩、素描などの有難い寄贈の申し出がありました。今回の新規寄贈作品を初公開すると共に当館の収蔵品3点を展示します。また、森芳雄が所属した自由美術家協会の盟友、武蔵野美術大学教授時代の同僚、森が所属した画廊の作家仲間など、当館のコレクションの中から森芳雄と切磋琢磨しあった仲間たちの作品を併せてご紹介いたします。
森芳雄と同時代の画家の名品が一堂に会することで、昭和の洋画壇の熱い思いが蘇るに違いありません。
小コーナーでは、資生堂名誉会長・福原義春氏からご寄贈頂いた駒井哲郎版画コレクションの中から、福原コレクションの特徴となっている、駒井哲郎の詩情豊かな1点ものの版画作品、モノタイプをまとめてご紹介いたします。ご堪能して頂ければ幸いです。