本展では、人の手の「かたち(形態・姿)」と「ちから(機能・能力)」を主テーマに、二つの大きな造形物群を紹介します。一つは、手足など身体の痛みや病の平癒(ゆ)祈願のために製作された民俗信仰の造形物です。福井県若狭町の三方(みかた)石観世音に、江戸時代後期から現在まで約200年にわたり奉納し続けらた総数6万点の手足を象った奉納物「お手足」があります。その民俗造形の迫力と魅力に本学調査チームが出会ってから学生や卒業生と共に研究を続け、2017年度からは福井県による本格的な調査が始まり、全貌が明らかになってきました。この成果の一部を紹介し、「お手足」に託された願いを読み解きます。
もう一つは、私たちの身近にある様々な道具です。「道具は手の延長」と言われますが、それはどのような体系を持つのでしょうか。古典的なテーマながら必ずしもうまく整理されていません。本学では、民俗学者の宮本常一(1907-81年)の指導で収集された膨大な民俗資料が収蔵されています。この民俗資料を中心に手と道具の関係を探ります。「つかむ」「たたく」「すくう」などの動作と機能に注目して具体的な道具を抽出することを試み、これらに手の形態や機能がいかに反映されているかを捉え直します。
また、日本の夏祭りを代表する「青森のねぶた」、人形浄瑠璃・文楽などの「人形」の手の表現の美しさとその工夫を探り、人の「手の進化」について哺乳類の骨格標本から確かめ、筋電義手から「手」のあり方の未来を問うコーナーも設けます。
「手のかたち・手のちから」を様々な角度から見直すことで身近な造形の世界から新しい発見ができる機会となれば幸いです。
監修:武蔵野美術大学 教育文化・学芸員課程研究室教授 神野善治