公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第261回として、「石の街を描く 大崎宥一展」を開催いたします。
長い年月をかけて風化してきた建物や街、風景、その場所に住む人々の想いや文化、歴史に惹かれ洋画家・大崎宥一さんは石の街の風景を描き続けています。
東京教育大学(現・筑波大学)に学び、昭和30年当時の潮流であった※抽象表現主義やアンフォルメルの影響を受けました。教員としての先輩であり二紀会創始者のひとりでもある洋画家・栗原信(明治27年~昭和41年)に声をかけられ、昭和38年から現在まで主に二紀展で発表しています。学生時代から「ごっつい塊を描きたかった」という大崎さんの主題は、SLやロードローラーに始まり、九州の装飾古墳、ヒンズー教寺院のレリーフ、マヤの遺跡、人、そして石の街へと移り変わってきました。
石の街、南欧の風景との出会いは大崎さんに大きなインスピレーションを与えます。ごつごつと切り立った岩壁の景色の中には古くから続く人々の暮らしがあり、繁栄、侵略、迫害、破壊の歴史があり、大崎さんはそれらを経て残る風景に揺るぎない不変の量塊を見出しました。
アクリル絵具に粒子の粗い岩絵具を混ぜ、あたかもキャンバス上で風化を再現するかのように描いては削り、時には水をかけて洗い、陽に晒(さら)すことを繰り返します。荒く掠(かす)れた筆致がモチーフの詳細な輪郭を取り払い、大崎さんの感性でわずかに抽象化された風景は画面の中で一つの塊としておおらかな姿を現しています。
今展の前期は初期から平成12年頃までの作品を、後期は南欧の石の街を描いた近年の作品を中心に合計16点を展示いたします。 公益財団法人常陽藝文センター
※抽象表現主義は第二次世界大戦後に興った抽象芸術の新しい動向。アンフォルメル(仏語で「非定形なるもの」の意)はそのひとつで、暗い色調、混とんとした空間表現、激しい筆触と厚塗りの質感を持つ抽象画で戦後、日本美術界を席巻した。