「View」と冠せられた風景画を一貫して描いてきた画家・津上みゆきは、2003年にVOCA賞を受賞、その後も国内外の数多くの美術館やギャラリーで発表の機会を持つなど、近年ますます注目を集めている作家です。様々な場所に足を運ぶなかで出会った風景との対峙の証であるスケッチを起点として描き起こされる作品群は、土地それぞれの自然や風土にまつわる記憶と経験を内包し、独自のよどみない絵画世界を提示しています。
津上は、2018年度に朝日新聞紙面で連載された朝井まかてによる小説『グッドバイ』の挿画制作を機に、長崎に取材した連作に取り組みました。画家にとって九州の美術館で開かれる初めての個展となる本展では、それらの原画全54点に加え、江戸時代より続く秋の大祭・長崎くんちの風景を描いた二枚一組の横幅6メートルにも及ぶ大作など、画家と長崎とのたゆまぬ対話が実を結んだ絵画がスケッチとともに多数展示されます。みずみずしい色彩やかたちをまとう津上の作品は、私たちが目にした実景や各々の心の内に秘められる場所の記憶など、風景にまつわる多種多様なイメージを呼び起こし、描かれた地そのものを見つめ直すきっかけを与えてくれることでしょう。長崎の風景との新たな出会いが待つ本展をぜひお楽しみください。