一歩ふみだせばそこから旅がはじまります。長い歴史の中で旅とかかわった画家は数多くいることでしょう。この展覧会では、近代以降の日本画家の旅に注目し、その旅のあり方に応じて「文人の旅」「近代日本画家たちの旅と遊学」「自己の芸術と旅」の3章に分け、19人の旅と芸術を紹介します。文人にとって旅とは「萬巻の書を読み萬里の路を行く」という理想にもとづいた、人格を磨く手段の一つでした。その理想を実践した富岡鉄斎(1836-1924)の描く山水には、旅をすることで蓄積された自然への理解と感動があらわれます。日本画で何をいかに描くべきか。この問いに真剣にのぞんだ近代の日本画家に、その答えをつむぎ出すきっかけを与えたのは、アジアやヨーロッパへの旅でした。竹内栖鳳(1864-1942)の渡欧をさきがけとする日本画家の旅は異国の風土や表現との出会いを生み、近代日本画に革新をもたらします。そして現代、自らの旅を旅の俳人松尾芭蕉に重ねた小野竹喬(1889-1979)、奄美の自然に生涯を託した田中一村(1908-1977)、あるいは旅によってほかに替えられないテーマを見出した小松均(1902-1989)は、自己の芸術の深化のために、自分のやりかたで旅と深くかかわったといえるでしょう。
本展覧会は、旅と画家との多様なかかわりから生み出され、今なお尽きせぬ魅力をたたえる作品を紹介し、近代以降の日本画の形成と発展に旅がいかに寄与したかをうかがおうとするものです。