佃弘樹は、1978年香川県に生まれました。武蔵野美術大学映像学科を卒業後東京を拠点に制作活動を展開しています。近年は、「HOUR OF EXCAVATION」(Neuer Aachener Kunstverein、アーヘン、ドイツ、2017)、「HIROKI TSUKUDA」(Galerie Gisela Capitain、ケルン、ドイツ、2017)、「Enter the O」(Petzel、ニューヨーク、2016)と精力的に個展を開催し、昨年発表した大作がニューヨーク近代美術館に収蔵されるなど、その国際的な評価を急速に高めています。佃の手描きの平面作品は、多くの場合、自身のドローイングやスナップショット写真の集積によるデジタルコラージュを経由し、固定されたイメージを一度破壊する事から制作が始まります。こうした創作過程は、佃が影響を受けたという芸術家アンドレ・ブルトンの提唱した「幻を視る力」の現代的な解釈から派生したのかもしれません。佃は幼少の頃より、自身の単元的な視覚を疑い、多元的な視覚認識の存在、つまり自ら「もうひとつの世界」と呼ぶ世界の存在を信じ、大自然の風景の中に突如として現れた巨大建築物や組み合わせによって違う形態に見える物体などの相対関係によって意味が変わる事象を重要なインスピレーションとしてその脳内に記録し、それを如何に表現していくか腐心してきました。本展は、そうした佃の表現方法のひとつの集大成と位置づけられると同時に、佃の頭の中にある「もうひとつの世界」、つまり人間が存在しない広大な終末世界の夢を佃弘樹独自の空間表現で構成した展覧会です。