『マシーネンクリーガー』は模型からつくる異色のSF作品として、誕生から37年を経た現在も国内外を問わず根強い人気を得ています。その原作者である横山 宏は1956年に北九州市に生まれ、幼い頃から少年雑誌に描かれた戦車や軍艦、架空のロボットに心を躍らせ、その模型づくりに熱中する少年でした。また、11歳の時には故郷の“皿倉山の未来”をテーマに描いた作品が市内のコンテストで大賞を受賞するなど絵画にも才能を発揮、やがて青年となった横山は武蔵野美術大学日本画学科に進学します。学生時代も模型への興味は変わりませんでしたが、在学中は画家・合田佐和子の元で「天井桟敷」などの劇団で舞台美術に携わり、そこで「平面をいかに立体的に見せるか」を学びます。卒業後はSF専門誌にてイラストレーターとしてデビューしますが、模型の創作も並行して続けられました。
転機となったのは、1982年に模型専門誌『月刊ホビージャパン』で発表された氏のデザインと造形によるオリジナルパワードスーツ作品《A.F.S.》でした。《A.F.S.》はリアルさを前面に出したハードSFのデザインで、当時の編集担当者はその完成度に驚き、『S.F.3.D オリジナル』という名前で同誌での連載が急きょ始まります。本作は大きな反響を呼び、1984年にはプラモデルとして製品化、映画やアニメが元ではない模型誌企画発の商品は極めて異例のことでした。その後『マシーネンクリーガー』と名前を変えて長きに亘り愛される本作は、遠い未来の地球で繰り広げられる独立戦争を、模型のジオラマ写真にストーリーを加えるフォトストーリーの形式で主に描きながら絶大な人気を獲得していきます。そして、本作に登場する立体作品が氏特有の手法によって生み出されていることも見逃せません。氏は制作にあたり、まず様々なパーツを集めて組み合わせ立体をつくりますが、それを自身で一度平面に描き、そこから得られる新しい情報や要素を立体に反映させるという立体と平面の作業を繰り返し行い作品がつくられます。こうした2Dと3Dの行き来によって、氏の魅力的でリアルな造形が初めて現れるのです。
本展では、代表作『マシーネンクリーガー』を中心に立体作品、イラストレーション、制作過程でのスケッチ、オリジナルの道具などを一堂に集めて紹介し、氏の創作活動の全貌に迫る初の試みです。これまで氏がファンと共に培ってきた空想世界を通じ「つくる楽しさ」を改めて感じて頂ければ幸いです。