金重陶陽(かねしげ とうよう)は、明治29(1896)年に岡山県和気郡伊部村 (現・備前市伊部)の歴史ある陶家に誕生しました。父・楳陽(ばいよう)に学び、若くして伊部を代表する細工物の名手となり、窯の改良や焼成方法の工夫、田土精製の研究を重ね、次第に細工物の制作から轆轤を挽く仕事へと転向していきます。この時、金重陶陽は30代半ば。備前焼の伝統を踏襲したうえで新たな可能性を追求します。
昭和17(1942)年、備前焼の技術保存資格者(丸技)に認定。同年に結成された「からひね会」は、金重陶陽をはじめ桃山陶に強い関心を抱く陶芸家が参加し、陶芸技術・手法の交流を深め、のちの「日本工芸会」設立にも携わるなど現代の陶芸・工芸界の創成に尽力します。
昭和31(1956)年、60歳で備前焼の技術により国指定の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、以降は多様な作品を制作します。その歴史に立脚した作家性は、備前焼に脚光を浴びせる契機となりました。
さまざまな陶印を用いたのも金重陶陽の特徴です。分銅型の陶印や「陶陽造」、「土」、「陶」、「ト」などがあり、年代や作品により変化します。なかでも「ト」は、カタカナの「ロ」を陶印に用いた北大路魯山人の影響といわれています。
本展覧会では、平成30年度に当館へご寄贈いただいた人間国宝・金重陶陽の作品、全35件からなる「上田コレクション」を陶印変化の変遷を軸にご紹介します。