現代日本を代表する画家の一人、野見山暁治は1920年に福岡県に生まれ、東京美術学校を卒業と同時に応召しましたが、満州で入院生活を余儀なくされました。戦後、虚脱感のなかから再出発をはかった彼は、1952年に渡仏、1964年に帰国するまでの間にサロン・ドートンヌ会員となり、第2回安井賞を受賞しています。1968年から1981年まで東京藝術大学で後進の指導にあたり、芸術選奨文部大臣賞、毎日芸術賞を受賞し、2000年には文化功労者に選ばれました。その一方では文筆でも多くのファンを魅了し、エッセイ集『四百字のデッサン』で日本エッセイスト・クラブ賞も受賞しています。
野見山暁治は、つねに身近な自然やモノから出発しますが、現象の表面を追うのではなく、対象の中から〈今〉という生命を引き出し、内在する根源的なものを探るために、内部深くに切り込んでいきます。解体が繰り返されるなかから生み出されるその画面は、対象の視覚的なあとをとどめないにもかかわらず、かえってその存在の気配や重みを感じさせ、見る者の心を揺さぶります。
この展覧会は、野見山暁治の初期から最近作にいたる油彩約70点、素描約20点を〈ボタ山の再発見-自然と人工のせめぎあい〉〈ヨーロッパ-日本 かたちへのとまどい〉〈空、海、風-うつろう自然と向き合って〉の3章に分け展観いたします。美術界の動きや様々な美術思潮の流行とは距離を置きながら、ひとり独自の道を歩んできた野見山暁治の画家としての遍歴をたどるものです。