幼い頃に父親を亡くしてから、二人の祖母、母、姉という女性に囲まれた環境で育った武者小路実篤は、その生涯で「女性」という存在から様々な影響を受けてきました。
その人生観を大きく変え、「第二の誕生」と自らが言うほどの初恋の人「お貞さん」への失恋は、実篤が文学へと踏み出すきっかけの一つとなりました。また青年期から美術鑑賞を好んだ実篤が愛した美術品の中には、女性を表現したものがあります。
女性たちとの交流や、美術品から感じとった女性の造形美は、実篤の作品の中にも反映されています。
自身の恋の経験から「お目出たき人」「世間知らず」などの作品を著し、家族や親しい女性たちの存在は、「友情」の杉子や「愛と死」の夏子などの、実篤作品に代表されるヒロインたちを生み出すことにもつながりました。
また油彩や水彩、素描といった様々な技法で実篤が表現した絵画の中には、造形美としての女性を描いた作品が残っています。実篤が出会った女性たちも絵画として表現され、中でも妻を描いた作品は、愛する女性を描く実篤の気持ちだけでなく、愛する実篤に描かれる妻の気持ちも感じることができます。
本展覧会では、そんな実篤の女性観を文学や美術の面から考えると共に、活動のキーパーソンとなった女性たちと実篤との関わりもご紹介します。