木村伊兵衛(1901-74)は東京に生まれ、幼いころから写真に興味を示し、1930年頃からプロの写真家として活動を始めました。下町に生きる人々の飾らない日常を切り取った作品や肖像写真を発表し、昭和の日本写真界を牽引した写真家の1人として広く知られています。本展では、木村が日本人写真家として戦後ヨーロッパを初めて取材した1954年及び55年に撮影されたパリの風景や人々の作品を展示します。当時は普及していなかったカラーフィルムに映された作品は、戦争の混乱期から立ち直りつつあったパリで生活する人々の温もりを詩情豊かに伝えています。一方、当館の顕彰作家である荻須高徳は、1927年に渡仏し、1940年に戦局悪化のためパリから帰国しましたが、1948年に日本人画家として、戦後最も早くフランスに入国しました。本展の木村作品が撮影された1954年には、戦後初めてパリの画廊で個展を開催しています。この展覧会は、荻須が画家として新たな一歩を踏み出した頃と同時期のパリを映した木村の作品を、同時開催の常設展で荻須の作品とご覧いただくことにより、2人の作家が写真と絵画でそれぞれにとらえた、色彩豊かでどこか懐かしいフランス、パリの情景を合わせて鑑賞していただけます。