戦後、一九四五年の晩秋から、失われゆく草屋根の民家を描き続けた画家・向井潤吉(一九〇一-一九九五)。向井は、日本各地を巡る旅の体験を綴った文章も数多く残し、それらには、訪れた土地での風景や人々との一期一会が、飾り気のない言葉で、時にユーモアを交えて語られています。私たちはそこから、変貌する戦後日本の側面を見つめ続けた一人の画家のまなざしと、消え去っていく風景への深い愛惜の念を読み取ることができます。
二〇一八年には、こうした旅の手記をはじめ、激動の二〇世紀とともに歩んだその人生における様々な回想などをまとめたエッセイ集『草屋根と絵筆画家向井潤吉のエッセイ』(国書刊行会)も刊行されました。
本展では、民家シリーズの代表作をはじめ、向井のエッセイと、それにかかわる絵画作品をあわせて展示します。
向井潤吉が、それぞれの制作地で得た感慨をエッセイから読み取っていただき、その人となりにふれていただく機会になればと思います。