1914年(大正3年)に東京都谷中で日本画家・日本美術院同人郷倉千靭の長女として生まれた郷倉和子画伯は、昭和10年に女史美術専門学校を首席で卒業後、翌年の院展に初入選を果たし、それ以後院展に出品を続けてこられました。昭和35年には院同人に推挙されたほか、評議員、監事、理事と要職を歴任し、平成9年には日本芸術院会員に就任、平成14年秋には日本画壇における女流作家の中心的存在としての活躍により文化功労者として顕彰されました。 画伯は昭和60年頃から紅梅や白梅を主題とした作品群の制作に取り組まれ、花咲く梅の古木がもたらす春の香を、馥郁たる余韻をたたえた作品として描き出されています。伝統的な日本家屋の一部や寺院の土塀を背景に、楚々として香り高く咲き誇る梅花の姿は、まもなく70年に達しようとする長い画業の探求の末に、到達された画伯自身の澄んだ心境を映し出すものと申せましょう。本展には、屏風を中心とする25点余りが出品されます。寒気の中で凛と咲きそむ梅の気品あるたたずまいを描き続け、今年89歳となられる画壇の重鎮の閑寂高雅な表現世界の数々をご紹介いたします。