太古の鼓動
一秒も一億年も同じ時の世界
想像は心のエネルギー源だ
田中栄一
田中栄一 色彩と時間
写真家の個性を示すもののひとつは色彩感覚である。田中栄一のカラー写真は、どのようなロケーションでも、国際都市の路地のどぎつい原色のネオンも、手つかずの大自然の神々しい彩雲も、作品の一番の魅力は色彩の効果である。
とりわけ、オーストラリアのフレーザー島を主題とした《砂と記憶太古の鼓動》シリーズにおいて、田中は優れて繊細な色彩感覚を示す。アボリジニのパッチュラ族に「クガリKgari」(楽園)と呼ばれていたフレーザー島の独特な風景は田中を存分に刺激した。作品群には、砂丘の砂粒一粒ごとの色や、湖の水面のわずかな細波を縁取る光と影の色が丁寧に映し出される。本展では、縦横1メートルを超える大型ライトボックス4点での新作展示を通じて、鑑賞者は田中の見た光と色を体感することとなる。
さて、田中の代表作は、同じくフレーザー島を主題としたモノクロ写真による《砂と記憶》シリーズである。田中は、モノクロ撮影によってフレーザー島の砂丘の景色を抽象化し、今日に至るまでに経過した時間の長さと、自然の造形美を強調する。この作品群は、フレーザー島の所在地であるクイーンズランド州のクイーンズランド・アートギャラリー&ギャラリー・オブ・モダンアート(QAGOMA)が収蔵しており、現地でも高い評価を得ている。
田中は、カラー写真において一瞬の美への愛おしさを示し、モノクロ写真において悠久の時への敬意を示す。田中が追究する美はどこか瑞々しく、ロマンが漂う。二度の大病を乗り越えての個展である。「これぞという写真を発表したい」という作家の意気込みはかつてないほどである。
冨澤治子(熊本市現代美術館学芸事業班主査・学芸員)