有史以前より、東西を問わず人間は自らを飾り立てる欲求を持つ生き物です。しかし、江戸時代の人たちは、奢侈禁令により身分によって着るものが制限され、自由なファッシを楽しむことができませんでした。特に男性は女性のように、髪を飾る櫛やかんざしなどの装飾品もありません。その中で、煙草入れは、刀装具に並ぶ男性の装身具として大変人気がありました。舶来品の金唐革や更紗を使ったり、刺繍を施したこだわりの袋物に、洒落の効いた根付や前金具をあつらえ、オーダーメイドの一品を作り出しました。
明治時代がやってくると、刀装具を作っていた職人たちが煙草入れの細密工芸を担うようになり、よりいっそう煙草入れの世界が華やぎを増していきます。注文主の好みか、それとも職人のこだわりか。どんな人が身につけていたのか。きせる筒・根付・緒締.前金具裏座など、煙草入れをとりまくミクロの世界をご堪能ください。