心に去来する想いを言葉にしたのが「詩」ならば、文字で記された時は、消えゆく想いをとどめ、広く伝える役割を果たしたといえるでしょう。やがて詩は、したためられた姿そのものが、人の目を楽しませ心揺さぶることともなりました。
日本の詩を代表する和歌は、平安時代、貴族の繊細な美意識から生まれた「かな」により、比類ない造形美を結びました。流麗な線、きわどい字形、緩急自在な字流れに絶妙な配置、さらには装飾された料紙―それらが響き合い、三十一文字の世界を変化に富むものへと昇華させたのです。
住友コレクションの日本書跡にも詩歌の作品が多く含まれています。本展では、かな古筆の白眉とされる《寸松庵色紙》をはじめ、料紙装飾も美しい歌切、歌会の和歌懐紙、さらには画賛など、平安から鎌倉時代に高揚し、その後も長く書き継がれた和歌の造形を紹介します。また中国からの新風に触発された漢詩文の条幅など、近世に生まれた詩歌表現の形にも注目します。