A-Labでは、Exhibition vol.17は川田知志、迎英里子による2人展『「街と、その不確かな壁」と…。』を開催します。
川田知志は、これまで、漆喰に顔料で描くフレスコ画の技術を応用し、既設の壁面や自作の仮設壁面などに展開する作品を制作してきました。
最近は建物を構成する壁から派生し、別の支持体へ壁面を移動させることで壁が持っていた記憶をトレースする作品を発表しています。
一方、迎は国債の発行や石油採掘、屠畜、核分裂反応、火山など、世界の様々な制度やシステムの仕組みを、日用品などを使って模式化した装置を作り、それを自ら”動かす”パフォーマンスを行ってきました。
そのシステムの持つ複雑さを見える形、手で扱える形に置き換えて提示してきました。
今回のタイトルの「街と、その不確かな壁」は1980年に雑誌「文學界」に発表された村上春樹さんの小説です。
村上さんの作品の中では、発表後、単行本に収録されて出版されることがなかった数少ない作品です。
小説では、壁の中と外の関係、僕と影、ことば、古い夢などをモチーフにしながら物語が展開されており、2人の作品に通じる側面が伺えます。本展では、2人にこの小説と向き合うことも含め、作品にアプローチしてもらいました。
今回、川田は市内のすでに元の用途として使われていない「履物屋」「小学校」「結婚式場」で数日ずつ滞在制作し、空間に漂う記憶などをなぞった作品をA-Labで再編成します。
迎は生活の中にある身近な社会の構造を自身の言葉で解釈し、装置を制作し、自らの身体を使って動かします。
川田は壁面という、”輪郭”や”外側”をモチーフに、迎は仕組みという、”中心”や”内側”をモチーフにしています。
2人の作品は一見して正反対な感じがしますが、見えないけど、そこに確かにある存在感というものにアプローチしているという視点では通じるものがあります。
何かを守る存在にも、別け隔てて邪魔する存在にもなる「壁」が作り出す空間の記憶。
運用の仕方で、善にも悪にもその表情を変える「システム」や「制度」の仕組み。
本展では、2人の作品を通じて、普段は意識していない”存在”を感じていただけるのではないでしょうか。