公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第258回として、「本場結城紬 十河慶子展」を開催いたします。
東京都出身の十河慶子(そごうけいこ)さんは、夫で画家の十河雅典さんが茨城大学に勤めることになって茨城県に転居したのを機に結城紬を始めました。子供の時に日本舞踊を習い着物に興味があったことと、夫の制作に触発されたのがきっかけだったといいます。結城市の機屋や指導所に通ってさまざまな人に教えを請い、図案の作成、織り、括(くく)り、染めなどの各工程を覚えたのち、独立しました。産地では分業で作られている結城紬を一人で手掛けている作家は希少です。
結城紬は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の両方に紬糸を使うこと、模様をつける場合は手で括ること、*地機(じばた)で織ることを条件としています。紬糸は一つの繭に二匹の蚕が入ってしまった玉繭や蚕が成虫になって喰い破って出てきた出殻繭など、長い糸を引けない繭を真綿にして取った糸で、繭から直接引いた糸に比べて凹凸があり、空気を含みます。紬糸を経緯両方に使うのは結城紬だけで、温かな風合いが大きな特色とされています。
十河さんはコンパスと定規を手に、線を引きながら図案を考えます。経糸と緯糸をそれぞれ括り、染め、機にかける、その膨大な手間ののちに織りに入り、初めて図案が織り柄となって現われるのです。
また通常では紬糸に負担をかけない化学染料が使われることが多い結城紬に、自ら建てた藍での染めを取り入れたのも十河さんの作品の特色です。染めの回数を変えることで濃淡を出すことができる藍染めによって、白から藍へのグラデーションが幾何学的でモダンなデザインに生かされるようになりました。
今展では十河さんの日本工芸会展への出品作10点と結城での修業の修了記念として制作した亀甲文の作品を前後期一部入れ替えして展示します。
公益財団法人常陽藝文センター
*地機…経糸を腰で吊り、張力を掛けて織る織り機。いざり機。