小貫政之助は女性像を、花、蛾、蟹等々をモチーフとし、ひたすら生(エロス)とその崩壊を画布の中に描き込んだ。それは人一倍、存在そのものへの不可思議さに駆られ、それに想いを馳せる鋭敏な感性の持ち主であったからに他ならない。
それ故、小貫はこの世に対する興味よりも彼岸と此岸、つまり幽明の境に眼が注がれていた。例えば女性像では、その裸身が放つ妖しいまでのひかりとエロスと、しかしその対極にある生命が孕む儚さ、危機感さえも同時に見据えていた。
その表現へと掻き立てたものは何か。終戦時が多感な二十歳、謂わば死と背中合わせの時代が彼の青春であったことにもよるだろう。
香月泰男、宮崎進、浜田知明が表現した「生と死」は絵画の主要なテーマでもある。同じくこのテーマに挑む小貫の作品も皆様に衝撃を持って迎えられることだろう。 御子柴大三(東御市・梅野記念絵画館運営委員)