私の作品にとって大切なのは、「中空」という概念です。「中空」は、中身が空(から)という意味で使われることがありますが、ここでは現実世界と他の世界との間に、中間空間(=「中空」)が存在するという意味で用いています。
わたしは作品の制作にあたり、現実世界の他に、もう一つの世界を意識しています。そして「中空」は、絵画の原初の形でもあり、水際の境界線上という場所に、または逢魔時という時間に、二つの世界が重なったときに姿をあらわすものだと思っています。
ビオトープという場所は、私の制作の端緒でもあり、また「中空」の場として多くの示唆をくれるものです。そこは循環する天使に巡り合う場所かもしれません。ただの水たまりなのかもしれません。
「中空」性を持つ作品においては、視覚補正ではなく、作品自体と世界観との関係性を表す目的に則って「位置」が決まると考えています。
また「中空」において絵画は、伝達と遮断という機能を有すると考えています。そして絵画のこの「中空」性は、布が古来から有する伝達と遮断の機能と、とてもよく似ています。
作品の素材として布を用いるのはそのような理由によるのです。