時は19世紀、パリから南東約60Kmに位置するバルビゾン村は、フォンテーヌブローの森に程近く、昔ながらの生活文化が保たれていることから、画家たちの関心を集めました。機械文明の発達の恩恵にあやかって急速に膨張する都市とは異なる世界が、画家たちの眼に魅力的に映ったのです。1824年に「ガンヌの宿」が開業し、逗留に適した場所が確保されていたこともあり、バルビゾンへと向かう画家たちは増加の一途を辿ります。彼らは、フォンテーヌブローの豊かな自然、農牧地帯における折々の風景、村人の素朴な生活様式をみつめて、その絵画化に取り組みました。ここに、奥深い森林や農牧地帯の風景、農村の風俗を主題とする絵画の流行が生まれたのです。
綺羅星の如く瞬く彼らの活動はそれぞれに個性的で、その作品群は様々な視点から産業と労働の実態、季節の移ろいに伴って変化する農村の風景を記録した社会史的に貴重な資料であると同時に、働く人々の尊厳、大地の恵み、そして人為が自然に及ぼす影響について想いを巡らせる機会を与えてくれます。加えて、描かれたフォンテーヌブローのうつくしい緑は、疲弊した現代人に安らぎをもたらしてくれることでしょう。
本展は、姫路市在住の実業家中村武夫氏(1933年生~)が形成した魅惑のコレクションから、ミレー22点、コロー18点を含む、バルビゾン派の31作家103点を一堂に公開するものです。フランス近代社会の一端を垣間み、自然と人間の関係について考えてみる機会としていただければ幸いです。