大正期(1912-26)の美術を通観する時、それらが僅か15年程の間に生み出されたとはにわかに実感できないほど、多様で豊かな表現が行われていることに驚かされます。とりわけ個性的であることが好まれ、伝統を重く受け止める一方で、既成の様式にとらわれない新しい感覚が集中して表出された点で、大変ユニークな展開のあった時代でもあります。平成15年目の現在、その時間感覚を共有する我々の眼に、大正期の表現はどのような密度をもって映るのでしょうか。
今回は大正期の女性像に焦点を絞り、時代の息吹に活性化した表現の多様性をご覧いただきます。大正ロマンを代表する個性派竹久夢二(1884-1934)と、浮世絵以来の伝統木版を新時代にふさわしい鮮烈な美人画として発表した伊東深水(1898-1972)の作品を中心に、橋口五葉(1881-1921)、横尾芳月(1897-1990)など、同時期に活躍した作家の作品を通して、この時代の豊潤な女性表現の魅力を探ります。