本展のタイトル「鳥ノアト」とは、能筆で知られる後陽成天皇(1571~1617)筆の重要美術品「後陽成天皇宸翰消息」の書中に出てくる、「鳥の足跡をみて文字が作られた」という中国の故事から転じた「文字や手紙」を意味する言葉です。鳥ノアト(=手紙)は、美しい「書」として賞玩するだけでなく、書き手の思いや人柄を文字として記録した、まさに歴史の足跡ともいえるでしょう。本展では館蔵の手紙と、手紙にまつわる品々を通して人・歴史・文化を展観いたします。
室町時代、将軍家に側近として仕えた石谷家に伝わった手紙を全3巻の巻子に仕立てたものが「石谷家文書」です。
織田信長の死について触れた第1巻の「石谷光政・頼辰宛近衛前久書状」、長宗我部元親と信長との息詰まる交渉を記録した第2巻「斎藤利三宛長宗我部元親書状」(※第2巻は2月23日(土)より展示)、信長に先立つ権力者であった三好長慶の政権の様子がわかる「京淀当座宛三好長慶書状」など、話題の「石谷家文書」全三巻をご覧いただきます。また豊臣秀吉に仕えた利休の様子がうかがえる「千利休自筆書状」、幕末の動乱期に一橋慶喜(後の15代将軍徳川慶喜)が弟の第9代岡山藩主の池田茂政に宛てて、生麦事件などに言及した「池田茂政・松平余四麿宛 一橋慶喜書状」など歴史を記録した手紙のほか、書としても賞玩される天皇や女性の雅な手紙や、大名たちの交流を物語る手紙もご覧いただきます。 また本展では「同時公開!石谷家文書」と題し、1月18日(金)から岡山県立博物館で開催される「伊予の戦国時代」展において、「石谷頼辰宛小早川隆景書状」(石谷家文書第2
巻)などをご覧頂く連携展示を行います。
デジタル技術の発達に伴い、連絡手段は手紙から電話、そして最近はメールやSNSと大きく変わりました。手軽になった反面、私たちの失ったものも多いでしょう。本展をご覧いただき、「鳥ノアト」のよさを感じていただければ幸いです。