20世紀に世界中のあらゆる国で発達し隆盛を極めたコミック。
日本はもちろんその中でも指折りのコミック大国として発展を遂げてきましたが、一方で意外なことに、海外の優れたコミックを目にする機会が少なかったといえましょう。とりわけフランスを中心に、1960年代以降“第9の芸術”とまでに多様で高度に発達した、バンド・デシネ(Bande Dessinee、省略してB.D.=ベ・デ)という固有のジャンルについては、翻訳という壁のためもあり、これまでごくごく一部の作品しか紹介されていません。
この展覧会は、その知られざるコミック文化の先進国フランスやベルギーなどで活躍する、現代のBDを代表する十数人の作家を、原画やアルバム(ほとんどがオールカラー、ハードカバー上製本の単行本)などの展示によって、彼らの創り出す驚嘆すべきイマジネーションの世界と、卓越したエスプリ溢れる社会観・人生観を心ゆくまで堪能していただこうとするものです。同時に1960年代以降、単なる大衆娯楽的出版文化というだけでなく、社会的影響力の強い映像文化の一翼を担うまでに成長を遂げたBDの発展と、さらには映画やグラフィックデザインにも越境するBD作家たちの活動を、さまざまな歴史的資料によって振り返ります。
展示では、作品の美術的側面だけでなく、できるだけ物語的側面を示すために、部分的翻訳や内容の紹介に努め、また同様にアルバムも多数手にとって読め、理解できるようになっています。そして、カタログでは読書案内や入手の仕方などBD世界への入門にも役立つような様々な工夫を凝らしていますので、これを機会に、日本のコミックとは一味も二味も違ったフランスコミックの魅力の一端に触れていただければ幸いです。