北海道に住む私は北国の明るく開放的な風景を描き続けてきたが、数年前からは北とは対照的な、重なる山々に集落が閉ざされたように見える九州内陸の山あい風景を主題にして制作をおこなっている。
七年前に初めて九州へ行き、平家伝説のある椎葉村、五木村、五家荘をたずねたのは、四月初旬だったが、黒々とした山の斜面に白く美しく咲く山桜は、その地に生きた人たちの魂が浮遊するように見えて、山肌には先人の血、涙、汗が染みついているようにも感じられた。風景の中に見えるものは、神話の頃から続く長い人間の歴史であった。私は強い印象を受けて、それからは幾度も九州の地を訪れ写生を重ねてきた。
今回のシロタ画廊の個展は熊本県、宮崎県奥地の山村を描いた油彩画九点を中心にして、その場の空気感を表現した鉛筆スケッチと、北の地に生きる人々を描いた人物画九点を展示し、会場を構成します。お時間がありましたらご高覧ください。 白鳥信之