タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、1月12日(土)から3月2日(土)まで、築地仁個展「母型都市」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーで2度目の個展となる本展では、1984年に同タイトルのもとポラロイドギャラリー(東京)にて発表された作品より約25点を展示いたします。
1960年代半ばより一貫して都市を被写体に、批評的且つ透徹した眼差しで社会と対峙してきた築地は、思考や感情に依る言語での表現に対抗する形で、写真という非言語メディアを用いて世界を再解釈・再構成してきました。1983年から84年にかけて「都市の変容と再生、構築と解体」を捉えるべく制作された「母型都市」のシリーズは、当時、作品制作に使用されることの殆ど無かった4×5インチのポラロイドフィルムで撮影され、60点を超える作品群として結実し発表されました。バブル崩壊以前のゴールデンエイジとも呼ばれる80年代に、スクラップアンドビルドが繰り返され変容し続ける都市の現場に立ちながら、築地は現実に起きる事柄を写真で探査し、作家が当時影響を受けたニュー・トポグラフィクスの視点で都市の現在を図示する試みに取り組んでいます。
私はポラロイド写真の一カット一瞬しか撮れないその一回性の画像の中に立ち上がる、多様な意味、色味や色再現の関係に興味を覚えました。その場で作品ができ、一瞬一瞬の一回性の表現にかけるポラロイド写真のコンセプトの緊張感が面白く、大好きになりました。(……)このプロジェクトにおいて、ポラロイド写真の現場で写してつくるという即時性がなければ、都市の現在・現場・現実の問題を浮き上がらせ、撮り、つくり、視て、考えるという私の写真の意識と感覚は明らかに出来なかったと思います。
2018年11月 築地仁
築地が写真を撮り始めた頃、都市の街区にはどこにでも活版印刷屋や活字屋があり、印刷機と活字を鋳造する音が街中に響き渡っていたと言います。本シリーズのタイトル「母型都市」は、活版印刷に不可欠な個々の活字を鋳造する際に用いる金属製の鋳型を指す「母型」に着想を得ています。母型から生み出された印刷文字の総体が近代文明を構成し発展させたことを想起し、作家は、変化していく都市の様相の一片一片をポラロイドで鋳造し刻印するように撮影し、質量をもって纏めることで都市の構成要素と全体像を描き出すことが出来るのではないかと考えました。結果として「母型都市」は誕生し、築地の写真的な視覚は今も都市の現在・現場・現実の母型を求めてフォトサーベイ(写真による探査)をし続けています。
都市をPolaroidをつかってサーベイすることは変化の予測可能性に挑戦してきた人間の意識とコンピューターを中心にしたシステムをつかう社会との関係を瞬時に場面としてフィードバックすることができる。それはすべての領域にまたがる商品化、差異化状況を冷静に視野に収める道具としての未来性をもつことを意味する。フレームアップが通じない現代の都市を解く時、ただ像を定着し何も語らない写真から新しい一つの思考が始まる。
築地仁、『カメラ毎日』、1984年9月号、p.298