ノートに綴る文字に想いを込めると詩ができるように、画用紙にのせる色調の移ろいに心を込めて詩にしたい。
原田泰治先生に憧れ、北の大地で画業を初めて25年。私の絵は、北海道各地で、ふと出会った風景の、細かいディテールにこだわりながら、その現場が呼び水となってひき出してくれる、心の奥底の原風景をブレンドして描きます。
もっとも、生まれは大阪市西淀川区。[ふるさと]の響きとはほど遠い、昭和30年代後半の幼少年期の心象です。
つつましい暮らしの、木造の家々が身を寄せ合う窓からは、白熱電球の灯が漏れ、食器が擦れ合う音、家族の声までが聞こえました。
工場労働者の額には汗が光り、下町商店街は活気に満ちていました。
贅沢ではなかったけれど、温もりのあった暮らしの記憶を、今、北国で見かけた何気ない風景に重ね描くのです。
見たままを写し取るのではなく、詩的な表現にしたいからです。
そして、それは、原田泰治先生の絵、[心のふるさと]からたくさん学ばせてもらい、つちかったものです。
先生からいただいた刺激、影響を自分の中に落とし込んで試行錯誤し、誰もしない表現と、独自の世界観を持って描いた作品たちです。
この度、そんな心の師、泰治先生から、この美術館での展示のお誘いをいただけたことが、本当にありがたくてなりません。
真野正美
色とりどりの看板の店を背に家路に急ぐ人々の姿。
ややもすると見落としてしまいそうな商品名や電話番号までがていねいに描かれている古い看板は、みな輝き包装紙のように店を包む。
真野正美の描く絵は、確かな視線ですべてを捉え独特の世界を創りあげている。
それは、北国の空気までも描きこもうとする信念からくるのではないだろうか。
待ちに待った大地が芽吹く春。
丘陵を緑の風が吹きわたる夏。
絵具で染め上げたような秋。
こんもりとした白い世界に包まれる冬。
北国の四季の移ろいは、ページをめくるたびにその美しい自然に誰もが感動し、魅了されてしまう。
そんな自然と共存する暮らしを克明に描くからこそ、懐かしさや郷愁が作品から醸し出されるのだろう。
日本は美しい。二十一世紀の子ども達にふる里のすばらしさを伝える為にも一枚でも多く北国の四季を描き残してほしい。
原田泰治