木版とシルクスクリーンの混合技法により現代的な色彩で空間と次元を表現する舩坂芳助
宇宙を想起させる荘厳な空間を木版で表し、色鮮やかな油絵具とプレス機で摺る堀江良一
草花や虫など身の回りの生物の生と死を、劇的かつ精緻に描出する銅版画家の安藤真司
この三人は、日本の版画界の第一線で活躍してきた美濃加茂市にゆかりの深い版画家です。いずれの作家も技法にこだわりを持ち、一貫したテーマを抱いて真摯に作り続けることで、多彩な展開と膨大な作品群を生み出しました。
美濃加茂市民ミュージアムでは、これら3作家の版画をそれぞれ200点以上収蔵しています。舩坂芳助、堀江良一の作品は本人から、安藤真司の作品は、新潟県在住のある蒐集家から寄贈されたものです。更に、舩坂氏との交流をきっかけとして、これらの作家たちと同時代の様々な版画家の作品を収集した市内在住のコレクターからの寄贈品も加わりました。本展では、こうして蓄積された美濃加茂市民ミュージアムの収蔵版画を一堂に展覧します。
戦後、版画は日本の様々な美術品を展観する海外での国際展において、特に高い評価を得ました。そして国内では版画ブームが巻き起こります。版画家は独自の技法や表現を模索し、国際展への出品を目指し、ギャラリーでの発表を全国各地で行うようになります。版画の市場は活性化し、自分で集めることができる美術品としての位置付けが確立されました。
舩坂芳助、堀江良一は、こうした版画の興隆の時代に活動を展開してきました。同じ頃に収集された市内在住のコレクターのコレクションは、版画史についての知識に裏付けられています。一方で、新進の頃から安藤真司の作品に魅せられて丹念に集め続けられた安藤作品のコレクションは、自分の手で飾り眺める喜びや人間的な温もりをも感じさせるものです。
日夜、自分の版画を作り続ける版画家と、集めた版画を日々の暮らしの中で楽しむ鑑賞家。版画は、その歴史に照らしてみても、作り手も見る者も「私」のものとして向き合い続けることができる美術と言えるでしょう。それぞれの思いに触れ、版画とは何かを見つめ直す機会となれば幸いです。