美濃加茂市民ミュージアムでは毎年「芸術と自然」をテーマに、現代美術家によるレジデンスプログラムを開催しています。今年度は京都在住の美術家・中村裕太(1983-)を紹介します。中村は、日本各地から陶片を拾い集め、その土地の文化や風習を読み解く《日本陶片地図》(2012-)を制作し、「あいちトリエンナーレ2016」をはじめとする国内外の国際展で作品を発表しています。また、2017年に名古屋市東山植物園で開催された「タイル植物園|熱帯植物の観察術」では、本草学をはじめとした日本の博物学の黎明期へとその関心を広げています。
本展では、この土地にまつわる2つのストーリーラインが設定されています。ひとつは、1913年に地理学者の志賀(しが)重昴(しげたか)(1863-1927)が木曽川に来訪し、「木曽川岸、犬山は全く(ドイツの)ラインの風景そのままなり」と手紙に記したことをきっかけに「日本ライン」と呼称されたこと、もうひとつは1883年に昆虫学者の名和(なわ)靖(やすし)(1857-1926)が下呂市金山町で新種のチョウを発見し、後に「岐阜蝶」と命名されたことです。この2つのエピソードを手がかりに、木曽川流域で「石」と「チョウ」を観察することから制作を始めました。
中村は、自らの手で集めた物品や資料を探究しようとする視点と、石やチョウが見ている世界を想像しようとする視点を持ち合わせています。そうした視点をもとに木曽川の自然や暮らしを所蔵資料とともに再構成しようとする制作方法は、博物館という装置に新たな視座を与える試みでもあります。作家の足跡を辿るように、展示室から森のなかへと道のりが続いていきます。