ヒノギャラリーでは2018年12月1日(土)より「山本糾 《何も変えてはいけない》」を開催いたします。
山本糾は1950年香川県生まれの写真家です。長く「水」を主要なテーマとし、自然の五大元素「地・水・火・風・空」に基づいた作品を発表してきました。今回の個展では、5年前から毎年訪れているという長崎県対馬にある龍良山(たてらさん)の麓に広がる八丁郭という森の様子を写した作品を展示いたします。
森といってもこの場所は、対馬に残る独自の天道信仰の聖地とされ、天童法師を祀る祠があり祭祀の場として崇められてきました。山本は初めてその地に足を踏み入れた時、ただならぬ畏怖の念を感じたといいます。かつて不入の地であったその森は、まさに千古斧入れぬ原始林で生い茂った古代の姿そのままでした。ともすれば撮影するのも憚られるようなこの聖域に、山本があえてカメラを向けたのは、そこに拡がる厳然とした景色を捉えること以上に、自身に届いた声なき声に耳を傾けなければと感じたからなのかもしれません。
本展のメインとなる、一列縦3枚、横9枚、計27枚の写真から構成された作品は、森のある地点にカメラを固定し、1カットごとに40度ずつ、360度カメラを動かして撮影したものだといいます。そこには何百年もの時を経て静かに佇む木々のほか、朽ち倒れた大木や土へと還る枝葉が写し出され、自然の摂理をありありと見てとることができます。と同時に、合わせた写真の継ぎ目に見られるズレが、本来あるべき森の姿に違和感をもたらし、自然に介入しすぎた人類の代償の大きさを示唆しているかのようです。何も変えてはいけない -- 作家が写し出そうとしたものは、自然の叫び、土着の神の啓示なのかもしれません。
山本糾のヒノギャラリーでの個展は実に11年ぶりとなります。作家自身の覚悟ともとれる今回の展覧会、真摯な眼差しで捉えた作品をどうぞご高覧ください。