松江泰治(1963年、東京都生まれ)はこれまで、世界各地へ赴き、撮影した土地を写真作品として発表してきました。松江の選ぶ被写体は、岩肌が剥き出しの山間地、木々の生い茂る森林地帯、高層ビルが建ち並んだ都市、古い家並みの広がる街など、あくまでその土地の表面、いわゆる地表です。撮影においては、構図に地平線を含めない、被写体に影が生じない順光で実行するといったルールを自らに課すことで、一貫して、写真本来の性質である平面性を追求してきました。そうすることで、コントラストや奥行き、中心と周縁との区別を周到に排除し、写り込んだすべての要素が等価に扱われた画面が生み出されます。
1980年代からモノクロ写真を発表してきた松江は、2005年、初のカラー写真集を発表しました。撮影機材や現像方法など、テクノロジーの進歩とともに絶えず変化する新技術を積極的に取り入れながら、新しい写真を求めて挑戦を続けています。松江の作品タイトルには地名や都市コードが付けられています。地名のデータベースを意味する「地名事典 / gazetteer[ギャゼティア]」と題した本展は、活動の初期から現在に至るまで、世界中の土地の名前を写真というかたちで収集してきた作家の仕事を体系的に紹介する、初の回顧展となります。