台東区が所蔵する敦煌莫高窟(とんこうばっこうくつ)壁画模写、および法隆寺金堂壁画模写は、東京藝術大学修了制作の一環として制作されたものです。近代以前より、模写は洋の東西を問わず、画家を目指す上でもっとも基本となるレッスンの一つとみなされてきました。傑作がどのような手わざによって生み出されているかを、忠実になぞり体験することで理解していくのです。これは中村研一も学んだ東京美術学校、また後身である東京藝術大学でも同様でした。
さらに敦煌莫高窟、そして法隆寺の金堂壁画は日本の仏教絵画、すなわち「ほとけを描くもの」の、源泉となるものです。中国の敦煌莫高窟では、4世紀半ばから14世紀にかけての非常に長い期間にわたって、造営が続けられました。そのなかでも、7世紀からの唐代は、ちょうど日本に仏教が伝わった時期にあたります。教えだけでなく、日本でも仏の姿を描きあらわすようになったとき、唐代の絵画はその「お手本」となったのです。日本における最古の本格的な仏教壁画として法隆寺金堂壁画に目を向ければ、そこには敦煌莫高窟における唐代壁画と共通する要素を見いだすことができるでしょう。
本展は、「仏教壁画」と「模写」という一見少し難しい、けれど奥深い二つのテーマを、台東区所蔵の敦煌莫高窟壁画、法隆寺金堂壁画を通し、紹介するものです。資料としてだけでなく作品として模写を見たとき、描く=写すことを通じて見えてくるものの探検に出かけてみましょう。