イタリアの美術家でありデザイナーのブルーノ・ムナーリ(1907-1998)は一風変わった本を長年にわたって制作しました。綴じられた紙の色も形もさまざまで、文字は印刷されていません。めくることができる抽象絵画のような本です。<読めない本>と名付けられ、紙の質感と色彩の変化で物語がつくられていきます。
ムナーリの活動は、1920年代末にイタリア未来派の一員として始まりました。未来派は、伝統的な表現を否定し、新時代の美術を創造しようとする運動です。そのなかでムナーリは、色をつけた木片をいくつか糸で繋げ、天井から吊るして風で動く<役に立たない機械>を発表しました。作品が動くということ、見る人が参加して作品が成立することは、第二次世界大戦後に制作された絵画やオブジェ作品、インダストリアル・デザインの仕事でも重要な要素となっています。
それはムナーリが、とても簡単な方法でものの形や見方を変えられるということを多くの人が知り、誰もが創作する楽しみを得て新しい目で世界と接するべきだと考えていたからです。そのため晩年には子どものためのワークショップに力を注ぎました。
本展覧会は、初期のイタリア未来派時代の絵画から晩年の絵本原画やデザイン作品まで、日本国内の所蔵品に日本初公開となるイタリアのコレクションを多数加えた約300点で、ブルーノ・ムナーリの活動の全容をご紹介します。ムナーリが伝え続けた見ること・作ることの喜びを、ぜひ体感してください。