ポップ・ミュージックやストリート・ファッションの分野からみると若者文化として少々後れをとっていたかのように見えるイギリスのアートシーンは、1990年を前後として驚くべき変化を遂げました。1988年、学生だったデミアン・ハーストたちが、ギャラリーシステムの保守性に風穴を空けるかのように、空き倉庫を利用したグループ展を自らの手で開催。彼らのキャッチーな表現を世に送り出すことで、ブリティッシュ・アートは一躍世界の注目を浴びるようになっていくのです。医療ガジェットによって生と死の関係を追求するハースト、カラフルで奥行きのない人物画を人間そのもののメタファーとして描くギャリー・ヒューム、自作自演によって自らの記憶の再構築を試みるジョージナ・スター、ぞっとするような暴力性やグロテスクな奇形に恐怖や道徳、性の問題を滑り込ませるジェイク&ディノス・チャップマンなど、90年代初頭に颯爽と登場した彼らは、YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)と呼ばれ、センセーショナルでファッショナブルなイメージとともに、ロンドン発のムーブメントとして認識されていくようになります。
本展では、そうしたイギリスの新世代にアニッシュ・カプーア、リチャード・ディーコンなどすでに定評のある作家たちを加え、活気に満ちたブリティッシュ・アートの全貌を、名門工房パラゴンプレスの所蔵するプリントワーク約120点によって概観できるようになっています。リアルでありながらファッショナブル、切実だけれどエンターテイメント性が高い。そうしたブリティッシュ・アートのエッセンスを、今一番「イン」なプリント作品群で存分にお楽しみください。