私の抽象作品はかたちを描くことから始まったが、そのかたちはやっぱり自然の中から見つけている。地球といっても、宇宙といっても同じことなのだが、私のすきなかたちにであうのはこの地球の生活の中でしかない。田舎道の水たまり、大空に浮んでいる雲、河原の石、壁にできたしみ、山のかたちや大きさ、自然の心を持った子どもの作品も私の作品のヒントになる。それらはヒントになるのであって、そのまま写生するのでは全くない。作品は自分のすきな空間を創ることなのだがどうしてすきなのか、すき、きらいの感情も考えれば個性である。私が面白いと感じるかたちはどこか陽気である。それは自分が楽天的で、何ごとも肯定的にものごとを考える性格だからかもしれない。「過去の自分を否定してそれを乗り越えて行くのは新しい作品を生みだす精神である」と、聞いたり読んだりしたことがあるけれど、それは違うと思う。過去があるから現在があるので、過去を否定して今存在することはできないだろう。…
元永定正 (『草月』240号 草月出版 1998年10月)