日本におけるサウンド・アートの先駆者として知られる鈴木昭男(1941- 平壌生まれ/京都府京丹後市在住)は、1960年代より、常に「聴く」側にまわり、音と場の関わり方を模索する姿勢によって、音のイベントやパフォーマンス、インスタレーションなどを国内外で展開してきました。
1963年、名古屋駅のホームの「階段に物を投げる」ことに始まる、空間への「なげかけ」と「たどり」を「自修イベント」として行うなかから、1970年代には「アナラポス」などのエコー音器を創作し、身近な素材を使った数々のサウンド・イベントを実施します。1976年には、南画廊(東京)にて初めての個展「音のオブジェと音具展」を開催。その後、フェスティバル・ドートンヌ・パリ(フランス、1978)や、ドクメンタ8(ドイツ、1987)に参加するなど、国際的な場での活動も本格化していきます。1988年には、子午線上にある京都府網野町(現在の京丹後市網野町)にて、「日向ぼっこの空間」を発表。秋分の日、自然の音に一日耳を澄ます行為が話題となりました。1990年代になってからは、「聴く」という行為を鈴木独自の思考や方法によって探求したコンセプチュアルなサウンド・インスタレーションを、各地の美術館やギャラリーで展開し、発表を続けています。
1996年にベルリンにて発表した、自然や都市の風景に耳を澄ます「点音(おとだて)」は、世界各地で行われ、日本では2005年に初めて、和歌山市内と熊野古道なかへち美術館周辺にて開催されました(和歌山県立近代美術館、田辺市立美術館、熊野古道なかへち美術館の共催)。この秋には、ボン市立美術館でのインスタレーションの発表を控えるなど、現在も精力的な活動を続ける鈴木昭男を、和歌山県立近代美術館と熊野古道なかへち美術館は、再び招聘して展覧会を開催します。
和歌山県立近代美術館では、これまでの鈴木の活動を、資料などによって振り返る特集展示をおこないます。熊野古道なかへち美術館では、「音の内在」をテーマにした新作を美術館の内外に設置して、鈴木の最新の表現を伝えます。鈴木の作品によって、あらためて熊野古道なかへち美術館、そして美術館の存する環境について再考、再認識させるものとなる予定です。