この度小山登美夫ギャラリーでは、リチャード・タトルの個展「8, or Hachi」を開催致します。タトルは現在77歳。約50年のキャリアを持ちながら常にフレッシュで柔軟な価値観の作品を作り続け、今、世界で最も重要なアーティストの一人と言われています。本展は、日本において2013年の小山登美夫ギャラリー京都での個展「The Place in the Window」以来4回目、5年ぶりの展覧会になり、8点の新作を発表致します。
【リチャード・タトルについて】
リチャード・タトルは1941年アメリカ、ニュージャージー州生まれ。現在ニューヨークとニューメキシコを拠点に活動しています。ハートフォードのトリニティ・カレッジで哲学と文学を学び、1963年に卒業。1965年24歳の時にニューヨークのベティ・パーソンズ・ギャラリーで初個展を行い、1975年34歳の時、ホイットニー美術館で個展を開催。その展示は反響を呼び、様々な物議を醸しました。国際展では、ヴェネツィア・ビエンナーレ(1976年、1997年,2001年)、ドクメンタ(1972年、1977年、1987年)、ミュンスター彫刻プロジェクト(1987年)、またホイットニー・ビエンナーレにも3回(1977年、1987年、2000年)参加しています。
このようにリチャードタトルは、ポスト・ミニマリズムの代表的なアーティストというだけでなく、そのカテゴリーや時代、ジャンルを超えて、常にアートシーンを刺激し、活躍してきたアーティストといえるでしょう。日本では、世界屈指のアートコレクターヴォーゲル夫妻のドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』(佐々木芽生監督)に、作品とともに登場したことでも広く知られています。
最近の主な展覧会として、2005年から2007年までサンフランシスコ近代美術館、ホイットニー美術館他アメリカ国内を巡回した大回顧展「The Art of Richard Tuttle」、また、2014年ロンドンのテート・モダンとホワイトチャペルギャラリーで同時開催した個展「I Don't Know, Or The Weave of Textile Language」において、布を使用した巨大な彫刻作品をTurbine Hallに展示し大きな反響を呼びました。作品はニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館ほかアメリカの主要な美術館、ステデリック美術館(オランダ)、テート・モダン(イギリス)、ポンピドゥー・センター(フランス)、ルードヴィッヒ美術館(ドイツ)など、世界の数多くの美術館に所蔵されています。日本では国立国際美術館(大阪)がコレクションしています。
【リチャード・タトルの作品について】
タトルは、彫刻、ペインティング、ドローイング、コラージュ、インスタレーション、そして言語や詩と、非常に多様な作品群を発表し続けてきました。また木、紙、布、針金、ロープなどのはかない日常的な素材に色や線をほどこして、一つの作品の中でドローイングや絵画と立体の間を揺れ動くような、ジャンルや分類を飛び越えた自由な表現を生み出しています。
それらの作品には、素材の断片のねじれや表面のしわ、小さな突起や質感、色の変化や影などの様々なニュアンスを生じさせ、そこには作家の動きや制作のプロセス、時間の流れといった「流動性」が感じられます。観客の立ち位置によって表情を変える、多層的な意味を凝縮した立体と、空間的な展開による豊かな知覚的効果をもたらすのです。
私達は普段見慣れているはずの日常的な素材や色が、まるで動きやエネルギーを伴ったような、強い存在として表れていることに驚きを覚えるでしょう。それは軽やかで、ユーモアさえ感じされる表現ともなり、同時に、別の景色や生活の記憶をも連想させます。タトルの作品は、日常生活では完全に知ることのできないリアリティの体験を映し出し、私たちに生き生きとした感覚や知覚と、新たな世界認識をもたらしてくれる鏡のようだとも言えます。
2013年小山登美夫ギャラリー京都での個展出展作は、金属のメッシュを筒や板の形に造形し、その上に、綿ファイバーの塊を任意に配置し、そこに、様々な色の絵具をしみ込ませて作った立体作品でした。
美術評論家の松井みどり氏は作品に関して次のように評しています。
「それ(京都の個展)は、「色」の個別性を、「浸透する」という絵具本来の性質とその生成のプロセスを捉える意識的方法として使うことで、現実的身体をもつひとつの実体であり現前として観客に差し出した力強い芸術体験だった。」
(松井みどり「率直な行為、完全な世界:リチャード・タトルの『場所』における個別的身体の発見と柔軟な哲学」、『Richard Tuttle The Place in the Window』、小山登美夫ギャラリー刊行、2018年)
【本出展作について】
本展覧会は、8点の最新作で構成されています。
今回の新作について作家本人は次のように述べています。
8は私の
好きな
数字の
ひとつ
小山登美夫
ギャラリーでの
展覧会に
8点の作品が
あることが
私はとても
嬉しい
小さい作品4点
大きい作品4点
もっと大きな
数字へと向かう
小道
小さな心が
慰め
活力
愛すること
正義
美しさ
そして希望を
見つけるために
タトルは詩のように小さなフォルムを通して観客の感覚を拡張していく表現を好み、小さな物のなかに複雑な意味が凝縮されていることに感動を覚えると言います。今回の作家の言葉や作品タイトルにはそのような詩的な表現が込められており、そして作品がいろいろな意味の文脈を示唆し、様々な鑑賞の可能性を開いています。
タトルは次のように述べています。
「西洋社会は模倣の芸術に支配されたのですが、それは、たいていの人にとって、模倣を基とする芸術表現のほうが安心だったからです。現実に根ざす芸術は、観客に自由を与えるが、多くの人は自由を恐れている。しかし私は自由を与えたいと思います。どんなにささやかで優しい形でも、観客に、私の作品を通じて心が自由になる感覚を味わってほしいのです。」
(『リチャード・タトル インタビュー』松井みどり文・聞き手、美術手帖2007年9月号)
タトルは、身体や知覚のリアリティを詩的な視覚的言語で置き換えながら、観る者を、生きることへの直接的関心や感動へと連れ戻してくれるでしょう。
本展は、77歳のアーティストの最新作8点をご覧頂ける大変貴重な機会となります。
リチャード・タトルの、更なる深化を遂げる鮮やかで自由な世界観を体験しに、ぜひお越しくださいませ。