版画は油彩画や水彩画のように紙の上に筆などで直接描くのとは異なり、版を用いて紙の上に刷り取るという方法で制作します。彫ったり削ったり、専用の描画材を使って版を作り、インクの転写や透写で作品が現れます。版となる材料は木、石、銅、シルクなど様々で、多様な技法による表現の違いは版画の魅力のひとつです。
本展では、坂本善三美術館所蔵の版画作品から坂本善三のリトグラフィ(石版画)を中心に上田薫、柚木沙弥郎などの作品約40点、また不知火美術館所蔵の野田哲也、坂本寧などの作品約20点を併せて展示します。
坂本善三(1911~1987)は阿蘇郡北小国村(現・小国町)の出身で、「グレーの画家」と称され、故郷の風土や自然に根差した独自の抽象作品を生み出しました。坂本のリトグラフィは、国際的な版画展でグランプリを受賞するなど高い評価を得ています。また、野田哲也は宇土郡不知火町(現・宇城市不知火町)出身の版画家で、自らが撮った写真に鉛筆などで手を加え、木版とシルクスクリーンの技法を使って日記シリーズという作品を制作し、世界的に活躍しています。
作家たちが時間と思いを重ねて生み出した作品の数々は、どれも奥深い魅力を持っています。秋深まるこの季節、版画作品とともに静かなひとときを過ごしてみませんか。