季節感が希薄になったといわれる現代でも、すこしあらたまった手紙は、時候の挨拶から始めるという作法は失われていません。それは、四季の変化に富むこの国に住む私たちが、季節をいとおしむ感性を共有していることの証しでしょう。
日本絵画の世界でも、平安時代に、春夏秋冬の自然景に、折々の行事や祭礼などをたくみに織り混ぜた「四季絵」が生まれて以来、季節の表現は欠かせないものとなります。
本展では、そうした四季絵の伝統をくみながらも、江戸時代ならではの感性で季節の表情をとらえた作品を展示します。蕪村の句に「秋きぬと合点させたる嚏(くさめ)かな」という、『古今集(こきんしゅう)』の秀歌をもじった一句がありますが、その軽妙なユーモアは、展示作品のひとつ、女郎花(おみなえし)に気をとられて落馬する高僧のあられもない姿を、英一蝶(はなぶさいっちょう)がとらえた「僧正遍昭落馬(そうじょうへんじょうらくば)図」にも通じます。
さらに、四季を一望のもとに眺め渡すことのできる四季絵屏風や、春秋、夏秋をとり合わせる二季の屏風もあわせて公開します。
平成最後の年の瀬、年号が改まろうとも、かわることのない悠久の四季の巡りを、絵の中にお楽しみください。 (担当 泉万里)