サム・フランシス(1923-1994)は、20世紀美術を代表するアメリカ抽象表現主義の画家として美術史にその名を残す現代の巨匠ですが、戦時中の飛行機事故による怪我が契機となり画家の道に転じるまで、美術とはほとんど縁の無かった異色の画家です。
サム・フランシスの画風は、水彩画にも相通じる滲みや飛沫、美しい色彩と大らかに呼応する大胆な余白など、日本人の美意識にもかなう独特の絵画世界を作り上げています。
脊髄損傷という大怪我が原因となり、生涯幾度と無く重い病に苦しむこととなりましたが、それでもなお、自らの病苦を凌駕するかのような精力的な絵画制作を続け、一作ごとに澄みきった光に満ちあふれてゆく独特の色彩世界は、サム・フランシスという画家にとっての絵画の何たるか、色彩の何たるかを、静かに物語っているかのようです。
1957年の初来日以来、日本の美術家ばかりでなく詩人、音楽家、評論家など多方面にわたる文化人と親交を深め、多くの作品を制作・発表するなど、日本とのつながりも深く、大変な親日家でもありました。
本展は、サム・フランシス作品の世界的コレクションを誇る出光美術館の全面的協力を得て、初期から晩年までの代表的作品50点を選りすぐって紹介するものです。
8メートルを超える巨大作品や国内未公開だった貴重な作品の数々を含む油彩、アクリル彩、水彩のどれもが、サム・フランシスが追い続けた華麗なまでの色彩世界を堪能するに十分の力作であり、日本が世界の誇るコレクションの圧倒的な魅力を知るまたとない機会となるでしょう。